別に読みたくないけど、こういうのを読むのも仕事のうちなので読んでみた。

まあ一言でいうなら、「ウソばっかり書いている本」。別の言い方するなら、「ウソも百回言えば本当になる」ことを目指している本。系統としては、「アガリクスで癌が治ります」とか「マルチ商法で、世界は変わる」と言った本と同じ。

たとえば、この本ではネット世界の三大法則の一つとして「(≒無限大)×(≒無)=Something」をあげ、その例を次のように書いている。

従業員一万人の企業といえば立派な大企業であるが、この企業が一日稼動すると八万時間が価値創出のために使われる計算になる。「一万人×八時間」の人数を増やしながら、時間を短くしていくとどうなるだろう。十万人から四十八分ずつ時間を集めることができれば八万時間になる。一〇〇万人ならば一人四分四八秒でいい。一〇〇〇万人なら二八・八秒。一億人ならば三秒弱である。つまり従業員一万人の企業の社員が丸一日フルに働くのと同じ価値を、ひょっとしたら一億人の時間を三秒ずつ集めることでできるかもしれないのだ。

しかし、これが成り立たないのは、常識で考えても明らかだ。難しくいうなら、「限界生産性逓減の法則」なり「並列化処理の通信オーバーヘッド」なり「熱力学第二法則」なり「組み合わせ爆発」なりを持ってきても明らかである。

梅田氏の主張としては、「まだ限界を語るところまで来ていない」ということなのかも知れないが、梅田氏の語る楽天主義は「コンピューターが、このまま進化していけば、人間なんて超えるんじゃね?」と言っているのと大して変わらない。「チープ革命」や「ロングテール」で三秒が扱えるようになったとして、実質、どの程度有効なのかを書かないのでは、楽天主義を通り越して単なる「不誠実」だ。量子力学(=新しい常識)を考える際には「ニュートン力学からのアナロジーで理解しようとしてはいけない」などとファインマン先生の言葉を引用しつつ説明しておきながら、その愚を、たぶん「意識的に」犯している。

グーグルの負の側面(ダークサイド)は色々あるが、その一つである「グーグル八分」を有名にしたのは、そもそも梅田氏であった。つまり、梅田氏本人は表裏知った上で、あえて「ウソ」ばかり書いているのである。優れた洞察力も、それを使うのはあくまで「ビジネスのため」なのだろう。要は、「グーグルに懐柔された」か「権力側に付いた方が儲かる(親ネズミじゃないと儲からない)」という判断だ。

「そうは言っても、まだまだ進化していくよ」と信じるのは、容易い。

しかし、この本が出たこと自体、WEB2.0の進化、もしくは少なくともグーグルの発展は「技術的なものではなく、政治的なフェーズに移った」ことへの証明だろう。

※この文章は、そのうち参考文献のページに追加されます。


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