警察の捜査能力低下を検証する
毎日新聞に、以下のような記事が載っていました。検挙率が低下しているのは事実ですが、犯罪が増加しているのも事実です。警察官一人の捜査能力は有限ですから、警察官の増加以上に犯罪が増加すれば、捜査能力は関係無しに検挙率が低下します。本当に捜査能力が低下しているのか考えてみたいと思います。
2003年08月01日(金) 22時27分 <検挙率格差>29署で1割以下 捜査能力低下あらわ(毎日新聞)全国の1200余りの警察署のうち29署で、昨年1年間の刑法犯の検挙率が1割に満たなかったことが1日、長妻昭衆院議員(民主)が提出した質問主意書に対する政府の答弁書で分かった。中には8700件の犯罪を認知しながら、検挙者が550人の警察署もあり、捜査能力の低下が改めて浮き彫りになった。(毎日新聞) http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030802-00002101-mai-soci |
まず、警察白書を元に、昭和48年〜平成14年までの、「犯罪認知件数」「検挙件数」「検挙人員」「警察職員数」を調べてみました(図1)。
図1 犯罪の絶対数の変化
これを、警察職員一人当たりに直したのが、図2になります。
図2 犯罪の相対数の変化
図2をみると、昭和63年〜平成元年にかけて検挙件数が、ガクンと落ちているように見えます。それで、「検挙率」と「一人当たりの検挙率」をグラフにしたのが、図3です。
図3 検挙率の変化
たしかに、昭和63年までは、一人当たりの検挙率がほぼ横ばいなのに対し、平成元年を境にして急落している様子が良く分かります。検挙率の低下は、最近の犯罪数急増が原因ではなく、もっと以前から起きているようです。
たとえば、検挙数低下の原因としては、以下のようなものが考えられます。
- 平成元年を境に、犯罪の質が急変した
- 平成元年を境に、捜査能力が低下した
- 捜査システムが変化した(組織が変わったり、使う機械が変わるなど)
- 職員の構成が変化した
- 処理能力の限界を突破した
- 警察官の士気が低下した(いわゆるモラルハザード)
- 平成元年を境に、捜査能力が発揮できなくなった
- 法体系が変化した
- 民間からの協力が得られなくなった(平成元年に大不祥事が起きたなど)
このうち、1、2-a、2-b、3-a の場合は、一旦低下したのち安定します。ただし、2-a が、平成元年に始まった「世代交代」と言った場合には低下し続けることもあります。そして、2-c、2-d、3-b の場合は、フィードバックが働くため、検挙数は指数関数的(簡単に言うと反比例のグラフ)に低下します。フィードバックによる性能低下の例としては、パソコンのメモリが足りなくなってスワップが発生しているような状況です。ですが、ここ数年は犯罪数が指数関数的に増加しているようですから、2-cが原因だとすると-2乗の指数関数的減少で「検挙数は、ほぼ0」になっていないとおかしいはずです(「選り好み」で、検挙数0を回避する手段もある)。
まあ、これだけのデータでは原因が何かまでは分かりませんが、能力を発揮できる環境までを捜査能力に含めるとすると、昭和時代に比べて捜査能力が低下しているのは事実のようです。「天皇が死んで、昭和世代の士気が低下した(2-bに相当)」とかかも知れませんが、平成元年頃、警察に何かが起こったのは間違いありません。
P.S.
「マスコミが適当なことを言っている」記事にしようかと思っていたのですが、逆の結果になりました(笑)。