産経新聞の主張を考えてみる会
引き続き、産経新聞社からのクレームについてです。クレームは取下げられたと思っていますが、「やっぱり侵害だ」などと、ごちゃごちゃと言って来ています。また、会社名を名乗って権利を主張しておきながら、「この要請は個人的なものである」と言い出すしまつ(表見代理行為?)。もはや意味不明なレベルに達しています。まあ、担当者の人間性と主張の妥当性は、「法的には別」だと思いますので、その妥当性について考えてみたいと思います。
まず、産経新聞社の主張を整理すると「悪のニュース記事のこのページは、記事の著作権を侵害している」と言うものです。それに対する、私の反論は「元の記事は著作物では無い」と言うものです。
そもそも、マスコミ(報道機関)と言うものは、国民の「知る権利」を代行する存在であって、著作権つまり知的財産権とは相容れない存在だと思います。まあ、報道以外の記事、たとえばコラムとか経済分析とかは、コンテンツ・プロバイダとしての財産権を認めても良いと思いますが、報道に財産権を主張するのは、基本姿勢が間違っているのではないでしょうか?
ここで、「マスコミも霞を食って生きているわけではないから…」と、同情の声があがるかも知れません。しかし、悪のニュース記事、ひいては弊サイトの目的を考えて頂きたい。弊サイトは、一般消費者が悪徳商法や危険から身を守るための情報を、無料で公開することを是としています。なぜか?それは、消費者契約法第1条で述べられているような「消費者と事業者との間の情報の質及び量の格差」を、少しでも埋めるためだからです。
現在、マスコミのWEBサイトでは、無料で記事が読めるようになっています。しかし、永遠に読めるわけではありません。サーバの問題や、マスコミが主張する「著作権」の問題から、一定期間(2週間から半年)で削除されてしまいます。新聞データベースを利用すれば、かろうじて過去記事を検索することは出来ますが、有料(結構、高い)ですし、一覧性がありません。これでは、不十分。全く持って不十分です。
ここで話は変わりますが、悪徳商法に騙されない方法とは、どんなものでしょうか?マスコミに取材された際に、最も良く聞かれる質問です。私は、2つあると考えています。それは、
- 情報をよく知り、よく読むこと(リテラシーの向上)。
- 相談先を、あらかじめ知っておくこと。
です。この世に、騙されない人間など存在しません(「オレは、騙されないよ」とお疑いでしたら、証明して見せます)。人間にはおのずと能力の限界があり、騙そうとする人間は無限に存在します。そのような時に大切なことは、「外部の力に頼る」と言う姿勢です。情報は疑似体験として重要ですし、他人の脳が活用できれば、2倍・3倍の判断力です。で、「相談先」と言うのは、主に消費者センターのことですが、real な存在に限りません。たとえば、google。何か勧誘された際に、会社名なり商品名なりを入れてみれば、たいてい何かを教えてくれます。「決める前に相談」。相談先を知っていれば、相談する気になるでしょう。これが大切です。
それで、弊サイトでは相談先の1つとして、通称「会議室」と言う掲示板を公開しています。ここでは、24時間、real な存在によって、悪徳商法に関する相談・回答が行われております(まあ、会議室と名乗るだけあって相談が主目的では無いのですが、議事ログが残り有用なため、相談にも使っています)。その相談の中には、既にマスコミに報道され、悪徳商法だと分かっているにもかかわらず「この会社は、大丈夫でしょうか?」などと言うのん気な相談も寄せられます。行政処分が下り、倒産へのカウントダウンが始まっていてもです。「おいおい(^^;」と呆れることもありますが、答えは簡単、ほとんどの場合「そんなこと、知らない」からです。騙されないためには、情報が必要なのに、マスコミは全然「知らせてない」のです。
現在、マスコミのWEBサイトでは、無料で記事が読めるようになっています。TVのニュースも無料です。しかし、知らない人が居る。現に、騙されている人が居る。これが、財産権の名のもとに有料になったら、どうなるのでしょうか?「お金持ちだけ活用して、騙されないでください。貧乏人は、国の広報に頼ってください」と言うのは、あまりにも酷です。ですから、弊サイトでは情報を無料で公開し、消費者が関係しそうなニュース報道(消費者問題、宗教問題、ネット事件)を、選択的に収集しているわけです。
さて、主題である産経新聞の主張に戻ります。考えるために、著作権を主張する記事を引用してみます。
愛知県警生活経済課と愛知署は24日、取引先のパソコン販売会社社長のIDとパスワードを勝手に使い、ネットオークションにアクセスして約3億6000万円相当を落札、業務を妨害したとして不正アクセス禁止法違反と業務妨害の疑いで同県豊明市三崎町中ノ坪、コンピュータープログラマー花井栄太郎容疑者(27)を再逮捕した。
花井容疑者は「仕事がうまくいかず、むしゃくしゃしてやった」と容疑を認めている。
調べでは、花井容疑者は5月3日、豊明市内のネットカフェ2店で、パソコン販売会社社長(41)のIDとパスワードを使ってネットオークションにアクセスし、出品物145点(計約3億6000万円相当)を落札。社長らに出品者への事情説明や落札取り消しなどの対応を余儀なくさせ会社の業務を妨害した疑い。
愛知県警によると、社長らによる出品者へのメール送信などの対応は翌4日の朝まで続き、花井容疑者も手伝っていた。パソコン販売会社は5月13日まで営業できなかったという。
同容疑者は4日、不正アクセス禁止法違反の疑いで逮捕されていた。
2002.07.25 ZAKZAK(http://www.zakzak.co.jp/top/t-2002_07/3t2002072518.html)の本文全文
比較のために、朝日新聞社の記事も引用します。
愛知県警愛知署は24日、同県豊明市三崎町、コンピュータープログラマー花井栄太郎容疑者(27)を、不正アクセス禁止法違反と偽計業務妨害の疑いで再逮捕した。
調べでは、花井容疑者は5月3日未明、同市内のネットカフェ2店で3回にわたって、同市内のパソコン販売業者(41)のIDとパスワードを使ってインターネットオークションに不正アクセス。この業者になりすまして競売に出されていた別荘や高級マンション、浮世絵、ダイヤなど145点、計3億5773万円余りを落札し、パソコン販売店の業務を妨害した疑い。
2002.07.25 朝日新聞名古屋朝刊 34頁 本文全文
また、共同通信社の記事も引用します。
愛知県警生活経済課と愛知署は二十四日、取引先のパソコン販売会社社長のIDとパスワードを勝手に使い、ネットオークションにアクセスして約三億六千万円相当を落札、業務を妨害したとして不正アクセス禁止法違反と業務妨害の疑いで同県豊明市三崎町中ノ坪一一ノ一、コンピュータープログラマー花井栄太郎容疑者(27)を再逮捕した。
花井容疑者は「仕事がうまくいかず、むしゃくしゃしてやった」と容疑を認めている。
調べでは、花井容疑者は五月三日、豊明市内のネットカフェ二店で、パソコン販売会社社長(41)のIDとパスワードを使ってネットオークションにアクセスし、出品物百四十五点(計約三億六千万円相当)を落札。社長らに出品者への事情説明や落札取り消しなどの対応を余儀なくさせ会社の業務を妨害した疑い。
愛知県警によると、社長らによる出品者へのメール送信などの対応は翌四日の朝まで続き、花井容疑者も手伝っていた。パソコン販売会社は五月十三日まで営業できなかったという。
同容疑者は四日、不正アクセス禁止法違反の疑いで逮捕されていた。
2002.07.24 共同通信 本文全文
印象として、ほとんど同じでは無いでしょうか?特に、共同通信の記事とは、漢数字と数字の違いぐらいしかありません。動機についても、
調べに対し、花井容疑者は、「開発したセキュリティーソフトを購入するよう持ちかけたが断られたため、セキュリティーの甘さを思い知らせようと、男性のIDを盗んだ」などと供述している。
2002.07.05 読売新聞中部朝刊 35頁の一部
と言うのを、定型文に直しただけで、創作性が感じられません。
著作権法第2条によると、著作物の定義は「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」です。ZAKZAKの記事には、思想も感情もありませんし、表現の創作性もありません。素材の選択や配列についても、この程度の選択性を「創作的」と主張するのは、権利の濫用だと強く感じます。市民の権利を奪い、財産の「囲い込み運動」を行おうとするもの、と言い換えても良いでしょう。しつこく権利を主張してくる産経新聞社に対しては、断固闘わなければなりません。紀藤弁護士も、サイバースペースの市民のための7つのルールと3つの前提の中で、
戦う姿勢を忘れない
本当に正しいと思うのであれば、逮捕されることも恐れてはいけないと思います。
たとえば著作権の問題については、もっと市民は業界による著作の囲い込みの動きに対し声をあげなければなりません。これまで市民は著作権を身近で感じることはできませんでした。インターネットの発展によってようやく市民は著作権を身近で感じることができるようになりました。この間に業界内の談合で囲い込まれた著作権はたくさんあります。
と書いています。
俳句のような美しさを目指す私としては、長文を書くのは主義では無いのですが、今回は、あえて長く書いてみました。皆さんは、いかがお考えでしょうか?
Written by. Beyond 5月9日02:45AM
同日19:41 誤字修正
メールで指摘してくださった岩波さん、どうもありがとうございます